日本の障害年金制度にいま、何が起きているのか?

コラム

はじめに

もしあなたや、
あなたの大切な人が
突然病気やけがで働けなくなったら――。

そんなとき、
支えになるはずの障害年金制度。

けれど今、
その制度が「支え」ではなく
「壁」になっている現実があります。

この記事では、
障害年金制度がどのように運用されているのか、

そしてその運用が
どれほど不透明で不公平なものになっているのかを
掘り下げていきます。

「制度があるのに、守られない」

そんな矛盾が、今の日本で静かに広がっています。

増え続ける“不支給”と、その裏側

2024年度、
日本年金機構で障害年金を
「不支給」とされた人の数は、
前年の2倍以上――約3万人にのぼりました。

けれどこれは、
申請者の状態が軽くなったからではありません。

背景には、
年金機構内部の幹部交代と、
それに伴う“審査の厳格化”があったと
報じられています。

つまり、
制度そのものの基準が変わったのではなく、
「中の人」が変わったことで、
支給されるかどうかが
大きく左右されているということです。

これは、制度の公平性を根本から揺るがす事態です。

見えない審査と、“あらかじめ決められた”結論

障害年金の審査にあたっては、
医師による診断や生活状況の評価が
重視されるはずです。

しかし実際には、
日本年金機構の職員が
審査の初期段階で「仮認定」を行い、
その内容をもとに医師が判定を下す
という
体制が導入されています。

つまり、
支給されるかどうかは医師の判断というより、
「事前に作られた流れ」によって
ほぼ決まってしまうのです。

さらに問題なのは、
職員と判定医との間で
「傾向と対策」と呼ばれる内部資料が
共有されていたという事実です。

そこでは判定医ごとの判断傾向が整理され、
「この医師は厳しいから、こう書けば通らない」
といった“対策”が取られていた疑いがあります。

これが事実であるならば、
もはやそれは公的制度ではなく、
恣意的なふるい落としです。

初診日――すべては、いつ病院にかかったかで決まる?

障害年金では
「初診日」が命綱のような存在です。

最初に病院にかかった日がいつだったか。

その日付ひとつで、
受給できるかどうかが決まってしまいます。

たとえば、
20歳で適応障害と診断されたものの、
その後通院が途絶えていた人が、

25歳でうつ病と診断されて
再び医療機関を受診した場合でも、
「初診日=20歳」とみなされてしまうことがあります。

そうなると「障害認定日での請求」ができず、
「事後重症」での請求しかできなくなり、
支給開始が大幅に遅れる――
そんな事例が少なくありません。

しかも、
この“初診日ルール”は多くの人に知られておらず、
「あとで知った時にはもう遅い」という落とし穴になっています。

制度があまりに複雑すぎるという構造的問題

制度の仕組みも、専門用語も、申請手続きも、
とにかくわかりにくい。

「初診日」
「障害認定日」
「事後重症」
「年金納付要件」――

これらを正しく理解し、
必要書類を揃え、
申立書を記入して提出する。

そのすべてが、
障害を抱えながら一人でこなすには
あまりに過酷です。

これは、
単なる“難しい制度”ではなく、

制度そのものが
申請させないために存在しているのでは?
と感じさせるほどの構造的欠陥です。

支給されないことの重さは、誰かの人生を左右している

障害年金が支給されなかったとき、
その人の生活はどうなるのか?

働けない。
収入がない。
家族も支えきれない。

生活保護に移行するしかない――

でも、
そこにたどり着くまでの過程で、
自己否定感、孤立、病状の悪化が重なっていく。

これは数字ではなく、
人の人生そのものです。

さらにその影響は家族にも広がります。

高齢の親が支え続ける、
仕事を辞めて看病にあたる、
兄弟姉妹が経済的負担を抱える。

社会の中に、
静かに崩れていく家族が増えているのです。

「工夫」や「努力」で乗り越えられる問題ではない

障害年金について検索すると、
「こうすれば通りやすい」
「ここに相談すればうまくいく」
といった情報が山のように出てきます。

でも、それは本来、
制度側がやるべきことです。

そもそも、
「通る方法を工夫しなければ通らない制度」など、
社会保障とは呼べません。

制度とは、
“困ったときに誰でも使える”からこそ、
意味があるのです。

わたしたちが問うべきこと

いま、必要なのは
個人の工夫ではありません。

「誰が、どうやって、
 どんな基準で障害年金を止めているのか?」

「なぜ、制度はここまで複雑なのか?」

「なぜ、支援を必要とする人が
 “申請できない仕組み”になっているのか?」

この問いを、
当事者だけでなく、
社会全体で考えなければならない時期に
来ているのです。

おわりに:静かに閉ざされる“支え”の扉

障害年金は、本来、
社会の中で最も弱い立場にある人を
支えるためにある制度のはずです。

けれど今は、
「本当に困っている人ほど、支援が届かない」――
そんな逆転現象が起きています。

それは、
仕組みが難しすぎるからではありません。

難しく作られている”からです。

この構造を
放置したままにしていいのか。

見えづらいところで
声を上げられずにいる人たちの存在に、
私たちはもっと目を向ける必要が
あるのではないでしょうか。

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